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能面いろは
[能面の概略]
 今から700年の昔、神事を原点として武家社会で発展したのが能であり、町方社会で発展したのが歌舞伎であるといわれています。ですから、歌舞伎独特のあの隅取も{デフォルメの原点}といわれる能面と共通するところがあるのだと思います。能面の種類は二百数十種類にものぼりますが、大別すれば五種類にまとめられます。「神の面」「男性の面」「女性の面」「狂の面」「鬼の面」がこれにあたります。
 代表的なものでは、「神の面」である「翁(おきな)」は、唇の両端から斜め下方に切り離してある切り顎、ぼうぼう眉などが特徴になっており、このような手法は数ある面の中でもこれだけであり、能面の最古の形と云はれています。
 「男性の面」では、在原業平の顔を写したとされる「中将」が王朝時代の貴公子で平家の武将を象徴していると云はれています。また、源氏の武将では凛々しい表情の「平太」などがあります。
 「女性の面」は、王朝時代の貴婦人を模しており、高眉、鉄漿(おはぐろ)などの特徴があります。これらは、各流派によって使い分けられ「小面(こおもて)」「若女(わかおんな)」などが代表例です。
 「狂、鬼の面」には心霊と怨念があり、有名な「般若(はんにゃ)」は女性の怨念の象徴です。
 能はもともと武家社会の中で発展したものなので、蔵の奥深く、眠っている面(おもて)も少なくないと、思はれます。


[能面の制作]
 面(おもて)の材料は檜(ひのき)を使います。木の目が詰んでいるものほど
適していると云はれています。大きさは標準的な「男性の面」「女性の面」であれば、長さ七寸、幅四寸五分、厚み二寸五分程度で、角のある「般若」などとなると、もう少し大きい物を必要とします。
 面(おもて)を彫ることを「面を打つ」といいます。その工程は粗彫りをし、つぎに「こなし」「小作り」などといはれる仕上げ彫りで表情をつくり、彫りの作業は完了します。また、「般若」の面などでは、大きな金色の目をむいていることはよく知られていますが、この部分には金属が嵌め込まれており、ほかに歯の部分に金属で入れ歯をするケースもあります。この金属の部分には本金の板または銅板を丹念にたたき出して鍍金(メッキ)を施したものを使います。次にお化粧とも云ふべき塗りの作業に入ります。塗りは、まず胡粉(ごふん)を膠(にかわ)で練ったものを使い下塗り、中塗りと進めます。この調合が難しく、慎重に行わないと乾いてからひび割れが生じてしまいます。上塗りはこの塗料に日本画用の顔料をいろいろと混ぜ合わせて肌合いを作ります。次に、毛書きという作業に入ります。額にかかる髪や眉、目、口などを書き込みます。そしていよいよ最後の「古式彩色」と云はれる面に深みを出す為の作業で仕上げます。
面の命は表情にあり、この表情を作るのが面打ちの作業の山場ともいえましょう。能面の表情は、押し殺された全ての感情が込められている中間表情であると云はれます。能楽師が顔を少し上に傾けて喜びを表し、下に傾けて悲しみを表す事を「照らす」「曇らす」といいますが、同じ一つの面を付けていながらこの様な表現ができるのも能面に施された繊細な細工によって作られた表情があればこそなのです。


[能面の写し]
 室町時代に完成した能が現代まで、時代から時代へと受け継がれた背景には、この様な技術が継承され、支えられてきた歴史があるのです。その歴史を踏まえて「写し」というのは、古い面をお手本に同じ物を新しく作ることをいうのですが、形はもとより表情、雰囲気などを変えてはいけないのです。「形を写すのではなく、表情を写す」この違いを理解することが面を打つ中で一番肝心で、一番難しいことではないでしょうか。


[面の扱い方]
・面を手にするときには、面紐の穴の部分を持つようにしてください。能面の顔は、胡粉(ごふん)と膠(にかわ)で仕上げられ、その上に微妙な彩色が施されて
います。そのため、水分や脂分に弱く、顔の部分に直に触れますと後々汚れの
原因となります。

・変色や変形、ひび割れの原因となる恐れががありますので、スポットライトの光や直射日光、エアコン(暖房)の風などに直接長時間当たるような場所には置かないようにしてください。また、冬場などは、ひび割れを防ぐために加湿器などで部屋の湿度を40%〜50%程度に保つようにしてください。

・能面は時がたつほどに肌の風合いがしっとりと落ち着いてきますので、なるべく外気に触れさせるようにしてください。

・汚れやほこりがついたときは、洗いざらしたタオルで軽く拭いてください。

・面をしまわれる際は面アテを顔に当てて、面袋に入れて保管してください。

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